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小花美穂著『POCHI』にみる🐶アダルトチルドレンが「いい子」である理由

アニメにもなった『こどものおもちゃ』で広く知られる、漫画家・小花美穂。
こどちゃはアニメで観ていたものの、リアルタイムでその作品に触れたのはこの『POCHI』という漫画が最初でした。

りぼんのなかでも、ちょっと異質な雰囲気をはなっていたこの漫画。
それもそのはず。大人になって読み返してみると、当時は気づかなかった「親と子の関係の逆転」が見えてきたんです。

連載の連載『POCHI~MIKE編~』と読み切り編『POCHI』の2つのお話からなるこの単行本。
アダルトチルドレンの自覚があるかた、そして「いい子」である自分に悩むかたには、ぜひ読んでほしい一冊です。

ひより
ひより
このサイトの記事は基本的にネタバレありきで展開していきます!
NG派のあなたは薄目で読んでね(笑)

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主人公は、親との関係性で生まれた3人の「いい子」たち

アダルトチルドレン(AC)とは、いわゆる毒親や機能不全家族などのもとで育ち、こどもの頃の家庭内でのトラウマが解消されないまま大人になった状態のことをさします。

そして、家族をはなれて社会に出ても「その人らしさ」を見つけられないまま、ある6つの役割を演じ続けている場合が多いのです。

    アダルトチルドレンの6つの役割

  1. ヒーロー(hero / 英雄)=だれからも褒められる優秀な子
  2. スケープゴート(scapegoat / いけにえ)=批判を受けるダメな子役
  3. ロスト・ワン(lost one / いない子)=目立たずそこに居る続ける子
  4. プラケーター(placater / 慰め役)=常にだれかのカウンセラー
  5. クラン(clown / 道化師)=おどけ続けるペット役
  6. イネイブラー(enabler / 支え役)=面倒見のいい世話焼き

漫画「POCHI」には3人の主要キャラが登場します。そして、わたしにはそれぞれがアダルトチルドレンの役割を抱えているように見えました。

連載『POCHI~MIKE編~』の主人公:ミケ(三宅美紅)

りぼんで連載していた『POCHI~MIKE編~』の主人公であるミケ。中学1年生で、おじいちゃんとふたり暮らしをしています。
そのワケは、彼女の両親が信仰宗教に入信し、修行のために信者達の集う家にこもってしまったから。

彼女の性質はおそらく道化役の「クラン」
クラスメイトの直美にも聞こえるように悪口を言われる生活のなか、笑って気にしないふりを続けます。
もしかしたら、常に自分が明るくふるまうことで「いつか両親が帰ってくる」と信じたかったのかもしれません。

『POCHI』全編のヒーロー:ポチ(有賀斗望)

この漫画のタイトルの由来でもあるポチ。そう呼ばれる理由はなんと、「母親が彼のことを犬だと思い込んでいるから」。

彼はミケと同じ道化役のクランに加え、いない子として扱われる「ロスト・ワン」としても描かれていました。

ポチの両親は、彼が生まれてくる前に幼い娘を亡くしています。そんななか飼い始めた愛犬「ポチ」までもが事故で天国へ。ショックで病的になってしまった母親に、生まれてからずっと”犬”として育てられているのです。

家のなかでは言葉も発さず、出されたドッグフードを食べる毎日。ロスト・ワンは主張をしないことによって、家族内の問題から離れて自分の心が傷つかないようにしているようです。

読み切り編『POCHI』の主人公:叶清香

実は連載編の『POCHI』は、この読み切りをもとに作られたそうです。読み切りの主人公・清香(さやか)は、「ストレス女王」とあだ名がつくほどの頼られ役。

中学3年生で受験の歳であるのに加え、学級委員や幼い妹の世話、家事で息つく間もない日々を送っています。学校で行われたストレステストでは学内でトップの結果を叩き出してしまい、そのせいか頭に10円ハゲまでできてしまうのでした。

彼女は前述したふたりとは違い、学校でも家庭でも、優秀な「ヒーロー」、なぐさめ役である「プラケーター」、世話役の「イネイブラー」としての役割をこなしています。

父親に「なんで95点までとれてあと5点がとれないんだ?」と責められたり夢を否定されるシーンは、わたしにも身に覚えがあって読んでいて苦しかったです。

「ちゃんとしなきゃ」というプレッシャーを常に抱える彼女は、アダルトチルドレンに悩むかた以外でもいちばん共感しやすいキャラクターなのではないでしょうか。

無自覚と期待。アダルトチルドレンの純粋さは

あらためてこの作品を読んで気づいたのは、3人の主人公たちの無自覚さです。それぞれ様々な家庭の事情を抱えながらも、「そういうものだ」と気にとめる様子もありません。
「ストレス女王」と呼ばれた清香も「負担なんて私には何ひとつ…」と最初は不思議そうな顔をしていました。

しかし、ひずみは必ず露呈します。「自分ちは普通じゃない」と自覚してからの葛藤のほうがこたえるのです。

無意識に家庭内での役割を補って、「いい子」でいようとしてしまうのは、やっぱり親の期待に応えたいし、いつか親も愛してくれると期待しているから。
それは、なにも知らないこどもならではの「純粋さ」でもあります。

ですが、お話のなかでヒーロー役であるポチは、その純粋さゆえに”だれかのために”人の自殺を手伝ったり、いじめっ子を屋上から落とそうとしたり、放火未遂をしてしまうのでした。

ミケとポチは祖父や祖母と暮らしていて、両親以外の「無償の愛をくれる人」のもとで育っています。また、清香の両親も作中で彼女の「負担」について思い直すシーンがあります。

アダルトチルドレンとしての生きづらさがあったとしても、環境や状況次第で未来は良くなっていくこともあるのです。
それが、この作品における少女漫画だからこその希望なのではないでしょうか。

りぼんに掲載されていた中高生向けで、一巻完結ということもあり、とても読みやすい作品になっています。
大人になって知識を身につけた今、違った目線で理解してみるのもいいかもしれません。

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